雪の朝 幸村の場合

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 音を立てずに開けられた障子の隙間から覗く光が眩しくて目が覚めた。同時に入り込んでくる冷気にぶるりと体を震わせ、二度寝したい気持ちを抑えて起き上がる。

「おはよ、旦那。今日は珍しくお寝坊さんだったね?」

「佐助…眩しい」

「俺様ってば今日も眩しいほど格好いいってこと?照れるなぁ」

 眩しかったのはお前の髪だ…とか、全然照れてなどおらぬではないか…という思いを音にはせずに佐助の後ろ、障子の外に視線を移す。

「ああ…積もったのか。どうりで静かだと思った」

 ええ〜?旦那ってば無視ですかぁ?という声を無視して立ち上がり、からりと音を立てて半開きだった襖を開け放つ。
 眼前一杯に広がる白。朝日が白に反射してきらきらと輝いている。先程佐助が眩しく感じたのはこれの所為か…と、朝日と夜半から降り続けたのであろう雪に反射する橙を見遣る。

「俺はそんなに寝坊してしまったのか?」

「ん?…そうでもないよ。何時もより四半時遅いくらいかな?ただ、旦那の元気な声が聞こえないと皆、朝が来たって感じがしないみたいでね。城のみんなが『幸村様はどこかお悪いのか』って心配して見てこいって言われて、さ」

寝起きには眩しすぎた橙の頭をがしがしと掻き混ぜながら佐助が嫌そうな顔を隠そうともしない。たまの朝寝坊くらいいいのにねぇと呟く従者にほわんと気持ちが暖かくなった。

「そうか。皆に心配を掛けては申し訳ない。直ぐに着替えて顔を出すとしよう」

「じゃあ俺様、朝餉の準備してくるわ〜」

 ひらひらと手を振りながら部屋を出ていく佐助を見送って、幸村は冷たく澄んだ空気を大きく吸い込んだ。


◆◇◆◇◆◇◆◇


 朝餉を終えた幸村は濡れ縁に腰かけ、食後のお茶を飲んでいた。
 目に映るのはやはり眩しいくらいの白い景色。こんなに綺麗な雪なのに、降り過ぎればやれ雪崩だ、水害だと面倒事を起こす。寒さに凍える領民も多く、農作物への影響も計り知れない。
 上田の領主となってから、このように雪を愛でることなどなかったと、知らず急いていた己に苦笑する。

「雪とは…美しいものだな…」

 熱いお茶をこくりと飲み干し、ほうと溜息を吐く。呼気が白くなるのを眺め、音もなく後ろに立った佐助を振り返った。

「そうだね〜。ま、俺様にとっちゃお仕事がしにくくなって迷惑なだけだけどね〜。もう移動が大変!こりゃ御給金上げてもらわないとやってらんないよね〜」

 こき、と首を鳴らす佐助に僅かに苦笑した幸村は、再び眼前の雪景色に視線を戻して。

「…奥州は…もっと降っているので御座ろうな…」

「ああ…あっちは上田より酷いと思うよ。他国とは完全に遮断されて大変だろうね」

「……春になれば」

「ん?」

「いや…政宗殿はきっと冬の間に更にお強くなられるのだろうなと思ってな」

「まぁねぇ…あの御仁が鍛錬を怠るとは思えないし。政務の間に鍛錬して、次に旦那に会うの楽しみにしてるんじゃない?」

「そうであろうか…」

 政宗は自分に会いたいと思ってくれているのだろうか。また戦いたいと。
 もし、そう思っているのが自分だけでなく相手も同じなのなら…

「佐助!!」

「うわ、びっくりした。何?旦那?」

「雪掻きをしよう!ああそれと屋根の雪も下ろそう!」

「ええっ?そんなん下男にやらせれば…」

「いや!これも雪の日限定の鍛錬だ!城の者たちも喜ぶだろう」

 ぐ、と拳を握りしめ立ち上がった幸村を見て、佐助が大きな溜息を吐く。こうと思ったらこの主が引かないことはこれまでの付き合いで充分過ぎるほど分かっていた。

「ああもう…分かりましたよ…」

 がくりと肩を落としながら消えた佐助に微笑んだ幸村は、見納めにと庭を隅々まで眺める。午後にはこの雪景色も人の行き来で白ではなくなるだろうから。

「待っていて下され、政宗殿…!この真田源次郎幸村、貴殿に次相まみえるときは更に強くなっておりましょうぞ…!!」

 未だ来ない春の訪れを想い頬を緩ませた幸村は、澄んだ空を見上げながら奥州の竜へと想いを馳せた。


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loveじゃないな…どう見てもまだlikeな感じ?w
でも早く筆頭に会いたいな〜って思ってるゆっきーでしたw


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