はじめてのおつかい

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 ちらちらと薄紅の花弁が眼前に踊る。

「…聞いておるのか?佐助?」

「聞いてますよ〜」

 ひらひらひら。右へ左へ上から下へ。

「で、お館さまは何と仰ったのだ?」

「…へ?ああ…行ってすぐ帰ってくるのも何だから、3日くらい向こうで羽伸ばして来いってさ。ついでに島津義久殿からお話でも伺って来いって」

 ああ、風が止んで花びらの雪も一瞬止まる。…これで俺様、目の前に視線を向けざるを得なくなった訳で。

「左様か!?では早速…!政宗殿!!」

 喜色を前面に出した旦那が首だけ振り返った先。旦那の腰を左腕でしっかり抱きしめ右手で髪を梳き、更に旦那の首筋に顔を埋めていた人物が旦那の声に反応してゆったりと顔を上げる。
 そのまま旦那の丸っこい頬にちゅ、とわざとらしい音を立ててにやりと笑った。

「ああ。一緒に行こうぜ。その為に来たんだしな?」

 嫌味なくらい似合うその笑顔。憎らしいったらない。
 ってゆーか、俺様、座布団ちゃんと2つ置いたよね?最初に顔合わせた時、ちゃんと上座に座ってたよね?それが何で、俺様がお茶淹れて戻ってきたら上座に二人で座ってる訳?しかも旦那を膝に乗せてるし。何で旦那も当たり前みたいに腕の中に収まっちゃってるんだろう。破廉恥とか言わない訳?もうその位置が当たり前なの?俺様、旦那をそんな子に育てた覚え無いんだけど。

「では早速支度を。薩摩の焼酎は格別故楽しみで御座るな!島津殿のお話も…」

「俺はアンタとのhoneymoonが楽しみなんだけどな」

 ちゅ、ちゅ、と首筋や頬、瞼や鼻先、何時の間にか握っていた手の甲だとかに口づけながらニヤついてる竜の旦那。…折角の傍から見たら男前な顔が台無しだよね。しかも二人とも微笑み合ってるけど…竜の旦那が何言ってんのか知らないけど、きっと会話、噛み合ってないよね?
 ちらりと部屋の隅に目を向ければ、思いっきり目を背けている竜の右目が居た。
 …うん、居た堪れないよね。気持ちは分かる。ってか、アンタ右目なんだったらあの人止めてよ。

「………」

 じっと見るけど、ちらりともこちらを見ようともしない。俺様一人でこの二人の相手するの嫌だよ?

「佐助!薩摩までは幾日程であろうか?ああ、それから島津殿へ何か土産を…」

「それなら大丈夫だ。俺がおっさん用の土産を持ってきたから、アンタは身ひとつで行けばいい。何なら薩摩からもうここには帰らず、このまま奥州に嫁に来てもいいんだぜ?」

「そういう訳にはまいりませぬ。佐助、旅支度と共に島津殿への土産も頼むぞ」

「……りょーかい」

 嫁の部分は無視なんだ…。うん、いいと思う。旦那が口で勝てるとは思えないしね。でもこのままだとホントにお嫁に浚われちゃいそうで俺様ちょっと不安…。

「……政宗様」

 あれ、今までその辺の道端に居る地蔵様みたいだった右目の旦那が動いた。

「真田も暇ではありません。もちろん政宗様は真田以上に暇ではないのは貴方様ご自身が良く御分かりの筈です。最短距離で行き来し、昼夜を問わず駆けてくださいませ。島津殿に御挨拶が済みましたら直ぐに!奥州へお戻りくださいますようお願い申し上げます」

 ああ…たかが焼酎の買い付けにわざわざ国主様が行くんだもんね…いくら島津殿へ会いに行くっていう大義名分があったとしてもさ…頭も痛いよね…いくら今は戦の気配が無いって言ってもさぁ…って、ちょっと待って!?

「え、右目の旦那、一緒に薩摩行くんじゃないの!?」

 俺様、てっきり付いていくもんだと思ってたんだけど!?

「仕方ねぇだろう…戦でもねぇのに奥州をそう長いこと放っておく訳にはいかねぇ。政事だって待っちゃくれねぇしな…」

 どこか遠い目でそう言う右目の旦那。…うん、一緒になんて行きたくないっていう雰囲気がビシバシ伝わってくるんだけど俺様の気の所為!?

「俺様一人でこの二人の面倒見ろって事!?冗談じゃないよ!」

 びしっと上座の二人を指差せば、後ろから抱えられてた筈の旦那が向き合って膝に収まっていた。しかもこつんと額をくっつけて何やら楽しげに話してるし!

「俺様やだからね!絶対嫌!俺様だって暇じゃないの!」

「佐助…何ならそれがし達二人だけで行ってきても…」

「何言ってるの旦那!あんた達だけで行かせたら1年経っても帰ってこないよ!」

 こてんと竜の旦那の胸に頭を預けて言われちゃあ益々二人でなんて行かせらんない!でも俺様も一人じゃ嫌!

「…み ぎ め の だ ん な…!?」

 旅は道連れ、一人より二人。負担は半分背負ってもらわなきゃ!大体、ほぼそっちの殿様が頭痛の種なんだから!

「………分かった………」

 がくりと項垂れた竜の右目。すごーく小さな声だったけど、しっかり言質は取ったからね!?

「じゃあ俺様用意してくるんで。行く前にお館様に御挨拶するんでしょう?旦那も着替えておいてよね」

「うむ。分かった」

 旦那の良い子の返事を聞き、その場から天井裏へと身を隠す。これ以上甘ったるい空気の中(一部暗雲漂ってるけど)に居たくないよ。これからの苦行を思えば特にね!!

「着替え、手伝ってやろうか?」

「また政宗殿は御冗談を」

 にやにや笑う残念な男前はにこにこと笑う天然にあっさりかわされていた。



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 天井裏から屋根の上へ出て、美味しい空気を胸一杯に吸い込む。
 眼下にはちらちらと薄紅の花弁。

「はぁ…結局旦那には甘いってね…」

 ふわふわ舞う桜の花びらみたいに頬を染めてる旦那を見ちゃったら、少しでも一緒に居られるようにしてあげたいって思っちゃうんだもん。

 薩摩までのお使い、お供させていただきますよ。


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佐助から見たダテサナでした。小十郎はもう諦めてますw
ってゆーか、焼酎買いにわざわざ薩摩まで行かないよ!
って突っ込みは無しの方向で…(汗)
きっと焼酎好きの幸村の為にお館様が考えた御褒美なんだ!
それをどっかから聞きつけた筆頭が便乗したんだ!
きっとそうだ!そういうことにしておいて下さい…。
ゆっきーが焼酎好きだったって聞いて思いついたネタでした…

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